ここまで声帯も加齢によって、やせて衰えてしまうこと、それを防ぐためには「ピシッと声トレ」のようなトレーニングを続けることが大切だという話をしてきました。声トレに加えて心がけたいのが声に良い生活習慣です。
声帯を動かしているのは、声帯自身とその周辺の筋肉なのですが、人間は会話をすることでこうした筋肉を自然と鍛えています。
ところが、年齢を重ねるにつれて会話そのものをする機会が減少していくため、筋肉が衰え、声帯をしっかり閉じられなくなってすき間ができてしまうのです。
これが加齢による声帯萎縮です。
たとえば、会社勤めをしていれば、朝から夕方まで会社の上司や同僚、後輩たちとたくさんの会話を交わすことになります。そのほかにもお客さまとの会話もあれば、食事をしながらお店の方たちと会話を交わすこともあるでしょう。家族と一緒に暮らしていれば家族との何気ない会話もあります。
それは主婦や子供たちも同様で、みんなが学校や職場、近所のお店、家庭のなかでたくさんの会話を交わします。
ところが、年をとるにつれてこうした会話の機会は急速に減っていくことになります。たとえば、定年になって職場を離れると話をする機会は極端に減ることになります。子供たちが独立をして家を離れると、夫婦二人だけの静かな生活が訪れることになります。特に男性の場合、女性と違って近所付き合いなどをほとんどしていないと、一日、誰とも話さず過ごすこともあります。
さらに年齢を重ねて、配偶者が亡くなり一人の生活が始まると、よほど社交的な人でない限り、家でテレビなどを見ながら過ごすことになりますから、ますます会話の機会が減っていくことになるわけです。
心理学者フィリップ・アドラーは「話す必要がないと、子どもが話し始めるのはかなり遅くなる」という言葉を残しています。
アドラーによると言葉は社会が発明したものであり、社会生活を営むうえで必要だからこそ人は言葉を話すそうです。そのため、言葉の必要性を感じないとすれば、人は言葉を話さなくなってしまうのです。
ふと気がつくと、「今日は誰とも話さなかったなあ」ということだってあるのです。
このように年を重ね、一人きりでの生活が当たり前になり、最低限必要な会話しか交わさなくなると問題が生じます。
声帯を「支える・動かす」筋肉が衰え、「しゃべらない」のではなく「しゃべることができなく」なったり、声に異常をきたすことにもなるのです。
そして、肺炎や手足に力が入らなくなってしまうことなど、様々な病気へとつながります。
つまり、人がいくつになっても健康でいるためには「誰かと会話をする」ことがとても大切なのです。
会話をするだけで声の運動不足を解消することができますし、人との会話は「言いたいことを言った」というだけでストレス解消になり、声の健康、そして体の健康へとつながっていくのです。
引用文献・参考文献
声をキレイにすると超健康になるー角田晃一氏ー
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